安易な解決法に反対！
携帯電話の迷惑メールの対処策に英数字アドレスへの変更が推奨されるようになってから、アドレス変更を迷惑メール対策として安易に勧める声が大きくなった。そしてそれでスパムが来なくなればその問題が解決したかのように感じる人も結構多いようだ。しかもアドレスを変えたがらない人に対して批判的な目を向ける声すら聞こえるようになった。
更にはアドレスが漏れる原因に自ら掲示版などで自分のメールアドレスを知らせているなどがあるために自業自得だというような声さえも聞こえる。以下はそれらの声に対して断固とした反対の意見を述べるものである。
スパムはインターネットコミュニケーションを破壊する！
メールアドレスの変更に関して簡単に口にする人が多いのは非常に残念なことだ。仮に自分の関係ない出来事で自分の姓名に関する悪いイメージが広がったと考えるが良い。はたして名前を変えることにがすんなりと出来るであろうか。
インターネットの魅力にはコミュニケーションの拡大という点が大きな一つとしてある。インターネット世界の中でメールアドレスは自分の唯一無二の連絡先を示す意思表示であり、個人の看板であり、信用の標識である。そのような大事なものをどうして簡単に変えることが出来ようか？
ここに極めて典型的な例がある。フリーソフト、シェアウェアというのは手軽に便利なソフトを手に入れる方式としてインターネットの前触れとも言えるパソコン通信の時代から普及してきた。現在ではインターネットの支払いシステムも信用性が増しているが、当初はパソコン通信ニフティでオンライン支払いを行うことが、もっとも手軽でかつ安全な方法であった。そのためかつてのフリーソフト、シェアウェア制作者の人達、また愛用者の人々はニフティ会員としてメールアドレスを持っていることが多かった。
そのような中の一人Ｕ氏はフリーソフトの制作者である。前述の如くニフティのメールアドレスを持っていて、ソフトに関する問い合わせ先として公開していた。ところがここに届くスパムメールがだんだん増えてきて、一日数通にもなるようになった。もしこのアドレスを廃棄したらどうなるであろうか？それはかつて自分のメールアドレスを明記して配ったソフトに対して責任を放棄することであり、ユーザーを見捨てるということだ。ソフト制作者の良心、責任としてＵ氏にはあっさりとそのアドレスを捨てることは出来なかった。
結局、スパムのあまりの増えように、Ｕ氏は指定したアドレスから以外は受け付けないようにした。初めての人からメールが届いても見れないけれども、代わりにどこのアドレスからどんな題名のメールが来たかは記録されているという。だからもしスパムでないメールであると考えられる場合には再度自分からそのメールアドレスに連絡を行い、用件を再送して貰うように頼むそうだ。現在では新規のアドレスからそこにメールが来ることは少ないので、特に不便はないそうだ。こうすることでスパムによりメールボックスが溢れかえるという危険性を避けているのである。
最終的に採用した方式の良否はともかくとして、この話はスパムというものがインターネットコミュニケーションをどんなに破壊してしまうかを示していよう。本来ならば、Ｕ氏はパソコン通信で使っていたメールアドレスをそのままインターネットで使うことが望ましかったはずである。ニフティがそれに対応したかはともかくとして、それ以前にＵ氏にとってはスパムが大量に来るそのメールアドレスをまともに使い続けることが出来なくなってしまった。
プロバイダーの吸収合併などでメールアドレスを変えざるを得なくなるのはまだ仕方ないと諦められよう。しかしスパムメールがどんどん増えていき、それで使い辛くなった場合にはなんと悲慘なことであろう！しかもなんとしてでも使い続けねばならない場合には前述のような極めて不便な策を講じなければならない。
こんな複雑な話を持ち出さなくても、仕事でメールアドレスを使っていて、お得意様などが多くある場合にメールアドレスが容易に変えられないのは想像のつくこであるし、そうでなくてもメールアドレスを「個人の看板」という立場で捉えたとき、それを変えざるを得ないことが自分の信用問題にとってどれほど大きな損失か考えても見よ。
インターネットの可能性を奪うスパム！
それならばメールアドレスは信頼できる人にのみ知らせて、掲示版などでは書き込まねば良い、書き込む方がおかしいのだ、などという人がいる。だが、迷惑メールが来ることを恐れて、メルアドが不特定多数の目に触れることや、意図しない人々の手に渡ることを避けることは本来のインターネットの可能性を奪ってしまうものであり、決して理想的なネット世界とは言えない。
電話の場合を少し考えよう。電話番号についても、勧誘電話が増えてきたために電話帳に載せないと言う人が増えてきた。これも本当はひどいことだ。本来、電話帳に載せる意味は知り合いが調べるときに便利なようにという発想のもとであって勧誘電話を貰うために載せていたわけではない。
だが実際の使われ方がそうなってしまったために防衛手段として電話帳に載せない方法を取るわけであるが、これは電話がコミュニケーションの拡大ツールというよりも、知り合い間でのコミュニケーションの深化という点に重点があったから妥協できたと考えられる。
しかしインターネットメールはそうではない。自分の作成したソフトを配り、サポートを行う。各種掲示版に自分の意見を言ってそれに責任を持つ。ホームページを作って訪問者の意見・感想なりを聞く。あるいはそれらからコミュニケーションを広げる。逆に自分が各種の情報、ソフトなどを得るときに、こちらへの必要な連絡先を伝える。
これらの場合にメールアドレスを並記しておくことは全く不自然なことではないし、むしろインターネットの可能性から言って当然のことである。
責められるべきは個人にとって大切なメールアドレスが、迷惑メール送信者達の手により、手当たり次第作成にせよ、どこからかアドレスを獲得したにせよ、メールアドレス保持者の意図しないところで大量に使われてしまうということなのだ。
人によっては物事には何事も明暗があって、スパムもコミュニケーションの増大による負の面なのではないか、と諦めようとする人がいるかもしれない。しかしスパムはコミュニケーションの負の面などではない。なぜなら、自分のアドレスを平気で偽り、返事など全く期待していない多くのスパム送信者の求めているのは、コミュニケーションなどと言えるシロモノではないのだ。騷音だけをまき散らしていく宣伝カーに対して、あれをコミュニケーションなどと言う人がいるであろうか？
コミュニケーションの負の面ならば、インターネットの掲示板などで見られる悪口の言い合いや違法なサイト、コンピュータウイルスの広がりなどこそを指摘するのがふさわしいだろう。それは利用者一人一人のネチケット、ネットモラルを高めれば良いという点で、各種レベルの迷惑行為者「スパマー」が跳梁跋扈するのとかなり違う問題であり、解決方法も恐らく違う。
スパムは根本的な解決を目指すべきだ！
以上のスパム行為の問題点を考えていただけば、携帯メールのスパムにせよパソコンでのスパムにせよ、メールアドレスの変更は根本的な解決にならないということが出来るし、またそれを行って取りあえずスパムが来なくなったからと言って、結局の所スパムがいつ届くようになるのか、戦々恐々とした日々を送ることは変わらない。
スパムはそんな方法で解決できないし、すべきではないからこそ諸外国では議会において問題になっているのだ。
私はメールアドレスの変更という、明らかに消極的な解決法が一般化されるあまりに、ネットにおけるスパム全体の根本的な解決がますます遠くなることをとても恐れる。
迷惑メールの多さにどうしようもなく困り、アドレス変更もやむを得ないと思っている人にネット提供業者がおずおずと獎めるのならばそれも良いだろう。しかしユーザ側がスパムの解決として躊躇いもなくアドレス変更に積極的になることは、極めて脳天気で、インターネットの将来を考えない、愚かな思考方法だと私は断言したい。
インターネットを普及しよう、それが素晴らしいものだと主張するのは一体何の為なのか？
コミュニケーションを拡大させ、必要な情報を広く深く得ることが出来るからではないのか。もしただ単に金儲けの為にネットを普及させようと思っているのならばそんな人間にネットをする資格はない。そしてネットの快適な利用を真剣に考える人間ならばスパムの問題がどんなに解決不可避な問題かに気付かなければおかしいのだ。
ネットに関わる者達、特にスパム意識の少ない日本において、スパムに対する危機感が高まることを強く望む。